白い体に黒い点がちりばめられた模様のチンアナゴ(英名:ガーデンイール)、砂から体を伸ばしてゆらゆらしている様子にいやされると、水族館やダイバーに人気の海水魚です。
複数の個体によってコロニー(生物集団)を作っていますが、全身の様子や、どうやって暮らしているのかなど、分からない点の多い魚ですよね。
この記事では、チンアナゴの体の特徴や生態について解説し、似た種類の魚も紹介します。
チンアナゴの基本情報
分類 | ウナギ目 アナゴ科 チンアナゴ亜科 チンアナゴ属 |
学名 | Heteroconger hassi |
英名 | spotted garden eel |
分布域 | インド洋から西太平洋の熱帯域 琉球列島、小笠原諸島、伊豆半島、高知県など |
生息環境 | 生息環境 水深10m~50m サンゴ礁周辺の流れのある砂地 |
最大体長 | 40cm |
「アナゴ科」の2種類を区別しておきましょう
チンアナゴは、分類上はアナゴ(穴子)の仲間。
混乱しがちですが、「アナゴ科」の魚には次の2種類がいるので、区別しておきましょう。
- 寿司ネタの穴子は、ウツボのように日中は岩穴に隠れていて、夜になると餌を探して泳ぎ回る夜行性。
- これに対してチンアナゴは、縦方向に掘った穴に体を沈めて、日中餌を食べる昼行性。暗くなると、巣穴の奥にもぐって寝ています。
チンアナゴの分布域や生息地
チンアナゴの分布域は、インド洋から太平洋の暖かい海。
水深10m~50m、サンゴ礁周辺の流れのある砂地にコロニーを作って生息しているので、ダイビングでも見やすい生物です。
日本では、伊豆半島や、高知県から琉球列島などで見られます。
チンアナゴの体の特徴
白〜灰白色の細長い体で、全身に黒い小さな水玉模様のあるチンアナゴ。
大きな黒い斑点が5つあり、体の大切な部分をカモフラージュしています。
体の両側に2個づつ(合計4個)ある黒斑点の上側には胸ビレとエラが隠されていて、お腹の斑点には肛門が隠されています。
成魚では35~40cm近く、直径1.4cmまで成長しますが、体の3分の2を砂にもぐらせていて、通常見られるのは頭から2つ目までの大きな斑点の下まで。
3つ目の斑点が見えるとラッキーな気分になりますが、排せつのために体を伸ばして肛門を巣穴の外に出しているのがチンアナゴ側の事情のようです。
透明な胸ビレ、背ビレ・尾ビレ・尻ビレを持ちますが、腹ビレはありません。
チンアナゴの名前の由来
「チンアナゴ」の名前は、日本の犬の「チン」に似た顔をしていることに由来しています。
英語は「spotted garden eel」、砂から顔を出している様子が庭に草木が生えているように見えることから名づけられています。
それぞれの英単語を日本語に訳すと、こんな感じです。
- spotted:点の模様がある
- garden:庭
- eel:ウナギ(正確にはアナゴですが)
チンアナゴは自分で巣を掘る
流れのある砂地の巣穴に下半身を入れているチンアナゴ、しっぽで垂直方向に穴を掘り、体から出る粘液で周りの砂を崩れないように固めて、巣を作ります。
穴はまっすぐではなく、途中ジグザグになっていて、強い流れがあってもチンアナゴが流されにくい構造になっています。
巣の長さは体長の2.5倍と言われているので、成魚の巣は1mを超えていますね。
天敵やダイバーが近づいてきて警戒している時や、夜寝る時には、巣穴の中に潜ります。
こちらは京都水族館が公開している画像、全身を出して泳いで、巣を作ってもぐってゆく様子を見ることができます。
流れに向かって体を曲げて餌を待つ
砂地に一面に広がるチンアナゴのコロニー、みんな同じ方向を向いて、みんな同じような姿勢をしています。
これは、餌の動物プランクトンが流れてくるのを待っているのです。流れてきたら、体を伸ばしてパクリ。
流れがゆるいときは体を長く伸ばしていますが、流れが早くなると、体を出す部分は短くなって身をかがめています。
巣穴を利用して体勢や動きを変化させて、水の抵抗による影響をやわらげています。
チンアナゴの繁殖と成長
チンアナゴは一度巣穴を作るとその近くで生活しますが、繁殖期になるとペアとなる個体の近くに巣穴を移動します。
繁殖時には、メスが巣穴から体を伸ばして産んだ卵にオスが放精して、受精させます。
卵や、ふ化した直後の仔魚(しぎょ)は海をただよっていますが、その後どのように成長するのかは分かっていません。
15センチ程度までに成長した幼魚は巣穴を作れるようになっていて、成魚といっしょにコロニーでの生活を始めます。
チンアナゴの群れに出会ったら、黒っぽい褐色の幼魚がいないか探してみましょう。
チンアナゴの観察・撮影はゆっくり寄って距離を詰めるのがコツ
チンアナゴは警戒心が強く、いきなり近づくと巣穴に引っ込んでしまいます。
一度引っ込んでしまうと、なかなか巣穴から出てきません。
そのため、写真を撮る際は驚かせないよう、姿勢を低くしてゆっくりと近づきましょう。
チンアナゴがストレスを感じる距離になると、少し引っ込みます。それ以上寄らずに、その位置で観察・撮影しましょう。
ダイバーのにおいを感じるともいわれていて、流れの下流や横がわから近づいてゆくのもコツの一つです。
吐く息の泡でも引っ込んでしまいますので、ゆっくり呼吸するようにしましょう。
生物の写真は目にピントを合わせて撮るときれいに写りますよ。
また、GoProなどの撮影機材を砂地にセットして、しばらくその場から離れるのもおすすめ。
警戒をゆるめたチンアナゴの動画を撮影できていることでしょう。
チンアナゴはおいしく食べられる魚?
アナゴの仲間のチンアナゴ、おいしく食べられる魚なのか、って、よく話題になります。
プランクトンを餌にしている魚を釣るのは難しそうだし、近づくと引っ込むくらいだから捕まえるのは難しそうで、食べた話は聞いたことありません。
直径1.4センチの魚、指くらいのサイズです。
捕まえたとしても、三枚におろすのは無理そうだから、輪切りにして骨ごと天ぷら、くらいでしょうか。
こう考えると、一度味わってみたい気はしますね。
チンアナゴの発見
チンアナゴが発見されたのは、1957年のモルディブ。比較的最近見つかった魚です。
オーストリアの生物学者イレネウス・アイブル=アイベスフェルトが、同じくオーストリアの生物学者ハンス・ハスの研究船「クサリファ号」で水中で調査している際に見つけました。
その2年後の1959年に、新種として記載。
当初の学名は「Xarifania hassi」、属名は研究船、種小名はハンス・ハスに献名しましたが、現在では別の属名に変わっています。
チンアナゴのなかま達 日本で見られる近縁種5種を紹介
チンアナゴは、「ウナギ目アナゴ科チンアナゴ亜科」に分類される魚。
から上半身を出して流れてくる餌を食べるという点で、寿司ネタにされるような普通の「アナゴ」とは異なる暮らしぶりの魚には、「シンジュアナゴ亜科」もあり、これら2種類は、上唇と胸ビレの形で分類されています。
日本で見られるチンアナゴの近縁種を5種類ご紹介します。
ニシキアナゴ
分類 | チンアナゴ亜科シンジュアナゴ属 |
学名 | Gorgasia preclara |
英名 | splendid garden eel |
最大体長 | 35cm 直径1cm |
白とオレンジ色の縞模様が特徴で、華やかな体色から「錦」の名が付けられました。
チンアナゴよりも小型で、水深18m~75mあたりと深めの砂地に生息しています。
インド洋から太平洋に広く分布し、日本では高知県~琉球列島で見られます。
シンジュアナゴ
分類 | チンアナゴ亜科シンジュアナゴ属 |
学名 | Gorgasia japonica |
英名 | pacific spaghetti eel |
最大体長 | 1m |
黒っぽい体に白い斑点を持つことが特徴。この白い斑点が真珠をちりばめたように見えることから名付けられました。
チンアナゴよりも大型で、1m近くになることもあります。
日本では八丈島や高知県柏島で見られ、台湾~海南島、ニュージーランド北部に分布しています。
ゼブラアナゴ
分類 | チンアナゴ亜科チンアナゴ属 |
学名 | Heteroconger polyzona |
英名 | zebra garden eel |
最大体長 | 30cm |
シマウマのような黒と白の縞模様が特徴。
チンアナゴよりも小型で、水深3mくらいの浅めの砂地に生息しています。
ペアで25cmの距離に巣穴を掘り、別のペアとはその3倍~4倍の距離をとって暮らしています。
フィリピンやインドネシアからパプアニューギニアに分布し、日本では愛媛県愛南町や沖縄県、西表島などで確認された記録があります。
2017年に、環境省のレッドリストにおいて「絶滅危惧IA類」に指定されました。
アキアナゴ
分類 | チンアナゴ亜科シンジュアナゴ属 |
学名 | Gorgasia taiwanensis |
英名 | Sharp-nose garden eel |
最大体長 | 74cm |
乳白色の体にオレンジ色の斑点があります。唇が黒いことと頭が尖っていることも特徴です。
チンアナゴよりも大型で、75cm程度まで成長します。
水深10m~22mと浅めの砂地に生息しているので、見つけることができれば、観察は難しくないでしょう。
台湾やバリ島など西太平洋に分布していて、日本では高知県柏島や西表島などで確認されています。
ニゲミズチンアナゴ
分類 | チンアナゴ亜科チンアナゴ属 |
学名H | Heteroconger fugax |
英名 | shy garden eel |
最大体長 | 70cm |
2016年に日本で見つかり、2018年に新種記載された種類です。
チンアナゴ以上に警戒心が強く、すぐに隠れてしまうことから「逃げ水(蜃気楼)」と名づけられました。
黒い斑点に覆われたチンアナゴと比較して、斑点が茶色いことが特徴です。
鹿児島県大島海峡で生息が確認されているほか、伊豆で確認されたこともあります。
まとめ
白地に黒い水玉模様の体を砂から出していて、水族館やダイバーに人気のチンアナゴ(ガーデンイール)。
インド洋から太平洋の暖かい海に分布し、水深10m~50mのある砂地にコロニーを作っているので、ダイビングでも見やすい魚です。
水流の方向を向いて、流れてくるプランクトンを食べています。
日本では伊豆半島や、高知県から琉球列島などで見られます。
警戒心が強いため、チンアナゴを見つけた時には、静かに呼吸をしながらゆっくりと近づきましょう。体を伸ばして餌を食べたり、3つ目の大きな斑点を見せて糞をする様子を観察できますよ。