2023年10月10日、沖縄県座間味村の嘉比島ビーチで、体験ダイビング中に男性が死亡する事故が発生しました。
午前中、嘉比ビーチ沖合で体験ダイビングをはじめましたが、その10分後に「浮上したい」と訴え、水面まで浮上後、意識がなくなり、死亡が確認されました。
この記事では、事故の内容やその原因、安全に体験ダイビングを行うための対策をご紹介します。
嘉比ビーチポイントの特徴
嘉比島(がひじま)は、沖縄県ケラマ諸島にある無人島。
隣の有人島、座間味島の座間味港からケラマブルーの海を船で10分ほど進んだところにあります。
事故が発生したのは嘉比島の北側にあるビーチ沖合のダイビングポイントです。
くだけたサンゴでできた白い砂が広がっていて、沖に向かってなだらかに深くなっていて、慶良間ブルーを堪能できます。最大水深は20メートル程度。
所々に岩があり、岩の周りに生息する生物を観察して回ります。岩にはアマミスズメダイやヘビギンポなどのマクロ系の小魚が暮らしています。
砂地では、ハゼやチンアナゴ(ガーデンイール)、ヤセアマダイ、ウミウシなどが見られます。脅かすと砂に潜ってしまう魚もいます。
ウミガメ、コバンアジ、マダラトビエイ、ハマフエフキなどの大きな魚もみられます。
流れのない浅いおだやかな海で、初心者でも安全に楽しめるダイビングポイントです。
体験ダイビングとは?
美しい海や生き物を身近に感じられる体験ダイビングですが、使い慣れない器材を使って水中で呼吸し、体力も使います。
ダイビングのライセンス講習では、水中での呼吸の仕方やコミュニケーション方法、道具の使い方、危険から身を守る方法などを教えてもらい、1人で水中を浮いて泳ぐことができるようになります。
これに対して体験ダイビングは、水中での呼吸の仕方やコミュニケーション方法を教えてもらっただけでダイビングを始めます。
多くの場合、インストラクターやガイドが体験ダイバーの手を引いて水中を移動してくれて、安全に楽しませてもらえます。
体験ダイビングでも減圧症の危険性に気を付けたい
ダイビングの安全性で最も重要なのは、「減圧症」にならないこと。
水中で圧縮された空気を吸うと、体の細胞などに空気が取り込まれます。深い所から浅い所に浮上すると、体に取り込まれた空気が泡となって現れることがあります。
この泡が体の細胞を壊したり、血管を詰まらせるのが減圧症。脳血管を詰まらせた場合、最悪、意識障害を起こします。
通常のダイビングでは18m~35mくらいまで潜りますが、減圧症になることはほとんどありません。
体験ダイビングの水深は12mまでと決まっていて、通常のダイビングより浅い所で、通常のダイビングより短い時間行います。
この点、じゅうぶん安全ではありますが、体調によっては体験ダイビングできない人もいます。
事故当日(2023年10月10日)の状況
事故者は、福島県から家族で観光に訪れていた63才の男性です。
9:30頃 嘉比ビーチのポイントまでダイビング船で移動し、家族で体験ダイビングをはじめる。
9:40頃 事故者の男性が「浮上したい」と訴える。ガイドとともに浮上後、男性は意識不明となる。
10:25 「男性が心肺蘇生を受けている」と海上保安部に通報が入る。事故者はダイビング船で座間味港まで搬送された。
10:43 ドクターヘリで到着した医師によって、事故者の死亡が確認された。
ショップ側の事故要因
ショップはホームページにお詫び文を掲載し、事故の翌日から2023年11月26日まで休業していました。
浅めの海で短めの時間行う体験ダイビング、安全に楽しめるレジャーですが、なぜ事故が起きてしまったのでしょうか?
事故の経緯からショップ側の要因は無さそうに思いますが、あえて言うと次の点でしょうか。
参加者がダイビングに適さない体調なのを見落としてしまった可能性
事故を起こしたショップでは、体験ダイビングの申し込み時に健康確認をしていなかった可能性があります。
体験ダイビングの申し込みフォームの入力事項は、申込者氏名、住所、電話番号、参加人数、性別、年齢、宿泊先、滞在日程などです。
健康認事項は無いため、参加者に持病があってダイビングに適さない体調だったのを見落としてしまった可能性があります。
体験ダイビングの参加者数に対してインストラクターが少なかったかも?
事故者は家族と一緒に体験ダイビングを行っていました。
「浮上したい」と訴えた際に、ガイドが一緒に浮上しています。
残された家族に対して、ガイドやインストラクターがお世話できていたのでしょうか。
ダイバー側の事故原因
なぜ事故が起こってしまったのか、ダイバー側の原因についても検討してみます。
ダイビングに適さない体調だったかも?
高血圧、高脂血症、喫煙などはダイビングに対する健康面のリスクです。事故者にこのような健康面の問題があったのかもしれません。
持病があるかなどショップ側が健康確認していたか不明なため、事故者は体験ダイビングできない体調だった可能性があります。
事故者は減圧症になった可能性がある
事故者はダイビング開始10分後に「浮上したい」と訴えましたが、水深10メートルより深く潜っていた際には、減圧症の可能性があります。
ガイドと一緒に浮上しましたが、水面まで浮上した後、意識不明になっています。意識障害も減圧症であらわれる症状の一つです。
居住地と沖縄の気温差で体調をくずしたか、熱中症で脱水症状だったかも?
事故者は、観光で福島県から沖縄県を訪れていました。
事故の数日前の福島県は、最高気温17℃と肌寒い気候でした。
しかし沖縄は10月に入ってからも最高気温が25℃を超える日が多く、事故当時の気温は朝の9:00で25℃以上あり、湿度も80パーセントを超えていました。
寒い所から沖縄などの暑い所に行くと、体がむくんでしまうことが多いです。朝起きたら、靴に足が入らなくなっていた、なんてことも。こんな体調では、ダイビングしない方が安全だと思います。
急な気温差や当日の暑さのため、事故者は体調が良くなかったのかもしれません。
また、暑くて脱水症状になった場合、減圧症の可能性が高まります。
過密なスケジュールで疲れていたかも?
家族と観光で訪れたのであれば、体験ダイビング以外にも予定が入っていたことでしょう。
体験ダイビング前のスケジュールで疲れていたかもしれません。
体験ダイビングが楽しみで興奮していた、または緊張で前日よく眠れなかった可能性もあります。
体験ダイビングへのストレスはなかったか?
事故者は、家族に気を使って無理をして参加したのかもしれません。
体験ダイビングへの不安や体調面の心配をインストラクターに伝えることができず、ストレスを感じていたのかもしれません。
ストレスが原因で、ダイビング中に息苦しくなり、「浮上したい」という状態になった可能性はあります。
安心・安全に体験ダイビングできるショップ選びのポイント
体験ダイビングに案内してもらうショップを選ぶ際、お値段は気になるところでしょう。
しかし、ダイビング事故は命にかかわることもあります。安心・安全に体験ダイビングするために、ショップを選ぶ際に確認したいポイントをご紹介します。
体調確認しているショップを選ぶ
ショップのホームページには、通常、健康上の注意事項を掲載しているので、ご自身の体調に問題がないか確認しましょう。リスクが高い方は、体調を改善してからダイビングを行いましょう。
健康面のリスクから60歳以上は体験ダイビングを受け付けていないショップもあります。年齢制限をしてなくても、健康面でリスクのある方や高齢の方の申し込みに医師の診断書の提出を求めるショップもあります。
健康面の注意事項を公開しているショップは、参加者の体調管理も行ってくれていて、ダイビングのリスクの高いお客を受けない=お客にとって安全、と言えます。
健康面の注意事項を公開していないショップは選ばないようにしましょう。
申し込み前に問い合わせをしてショップの対応を確認する
申し込み前に、ショップの雰囲気などを確認しておきましょう。
ショップに問い合わせをして、礼儀正しい返信が来るか、信頼できそうな説明をしているかなど、対応を確認しましょう。不安なことや分からないことがあれば事前に問い合わせて、ストレスを無くしておくのも安全のためには大切です。
また、ホームページのスタッフ紹介から、どんなインストラクターがガイドしてくれるのか、コミュニケーション取れそうかも確認しておくとよいでしょう。
インストラクターに対する体験ダイバーの人数を確認する
体験ダイビングでは、自分1人で水中を移動できるようになるかどうかわかりません。
多くの場合、ガイドやインストラクターに手を引いてもらって水中を移動します。
このため、ガイド1人で案内できるお客は、2名までです。
申し込みする前に、ガイド1人に対する体験ダイバーの人数を確認しておきましょう。
まとめ
2023年10月10日、沖縄県座間味村の嘉比島ビーチで、体験ダイビングを始めて10分後に水面に戻りたくなり、水面に浮上した後に意識不明になって死亡する事故が発生。
持病があるかなどショップ側が健康確認していたか不明なため、事故者は体験ダイビングできない体調だった可能性があります。
また、寒い所から暑い所に移動した場合、温度差で体がむくんでしまうことがあります。この場合も、ダイビングに適した体調ではないかもしれません。
体験ダイビングは、12mより浅い水深で短めの時間行うので、安全に楽しめるレジャーではありますが、安全に海に潜ることのできる健康状態か事前に確認しましょう。当日、ショップのスタッフにも相談すると、より安心・安全です。
2023年に発生したダイビング事故
2023年6月19日 沖縄県糸満沖ルカン礁でのドリフトダイビング中の漂流事故