2023年9月14日、東伊豆でダイビング中の女性が死亡する事故が発生しました。
「女性が溺れている」と付近のダイビングショップ店員から119番通報があり、千葉県船橋市の臼井幸恵さん(55)が意識不明で海から引き上げられましたが、搬送先の病院で死亡が確認されました。
この女性は20年以上の経験があるベテランダイバー。年に数回、夫婦でダイビングを楽しんでいたそうです。
ガイドを付けずに夫婦でセルフダイビングをしている際に起こった死亡事故。
この記事では、事故の詳しい内容、事故を起こしてしまった原因、同じ事故に遭わないための対策をご紹介します。
稲取海岸のバディダイビングポイントの特徴
稲取海岸で、バディ同士のセルフダイビングをする場合、ダイビングショップ「稲取マリンスポーツセンター」の前のビーチで潜ることになります。
オープンウオーターなどのライセンス講習にも使われているような穏やかなビーチで、最大水深は17m。
沖に向かってガイドロープが張っていて、目印になるブイも設置されています。
主に、まっすぐ沖に向かって泳いで、180度向きを変えて、エントリーポイントに戻るコース取り。
分岐するルートもありますが、ブイもあるので、迷いにくい対策は取られています。
事故の経緯
事故が起こった経緯について詳細に説明します。
午前中に2度のダイビング
2023年9月14日、午前中、夫婦で2度(2本)のセルフダイビングを行いました。
午後3時30分3回目のダイビング
ゆっくり休憩をした後、15:30頃、3回目のダイビングにエントリー。
バディ(夫)が水中カメラを落としてしまい、カメラを探すために分かれて、水中で別行動をしました。
午後4時35分に女性が発見される
海岸の浅瀬で女性が倒れているところを通りがかりの人が発見し、ダイビングショップの店員が119番通報しました。
女性ダイバーは意識不明の状態で海から引き上げられ、搬送先の病院で死亡が確認されました。
事故の要因
夫婦でセルフダイビングをしている時に、20年以上もの経験のあるダイバーが亡くなりました。
なぜ、ベテランダイバーが浅くて穏やかな海でなぜ死亡事故を起してしまったのでしょうか。
ダイビング事故の原因として考えられる3つの要因
- 本人のダイビングスキル
- 海の状況
- 本人の体調
と、
- 今回の事故特有の要因
の4点について検討します。
事故者のダイビングスキルには問題なさそう
死亡した女性は2015年9月にパラオで500本の記念ダイビングを行ったことが、ショップのウエブサイトに紹介されています。
それから8年も経っているので、1000本前後は潜っているかもしれません。
また、流れがあったり海が荒れたりするパラオでダイビングしていることから、中性浮力などのダイビングスキルや、危険を冒さないような精神面のコントロールには問題ないように思います。
写真は、パラオのダイビングショップ「ブルーマーリン」より。
海の状況はおだやか
この日、稲取ビーチポイントの海況は穏やかで、風もほぼなく、ダイビンクにはとてもよいコンディション。
夏季のダイビングスケジュールで、午前7時半から午後5時15分の間ダイビングが可能でした。
透明度は10メートルもあるので、ガイドロープやブイを見失って迷ってしまう可能性は低そうです。
体調面でトラブルが起こった可能性
本人のダイビングスキルと、当日の海峡に特に問題はなさそうなので、体調面でトラブルが起こった可能性が残ります。
閉経後の女性の体調変化の影響
死亡した女性は55歳。閉経しているか、閉経に向かってホルモン量が変化しているお年頃。
女性ホルモンの魔法が切れ、コレステロール値、血圧などが上がりやすくなります。
血液がどろどろ気味になり、血栓ができて意識障害を起こしたり、何らかの体調悪化トラブルが起きる可能性は上がってきます。
陸上で意識を失う事態も危険ですが、水中で意識を失うとレギュレータが口から外れて溺れる、ということも予想されます。
ダイビング地までの移動による疲労の影響
この女性の住まいは千葉県船橋市。
移動手段は自家用車や、新幹線などありますが、どのルートでも、船橋市から東伊豆町稲取までは3時間強です。
朝早くから準備して出発したとすれば、早朝の準備や移動だけでも体力を使ってしまいます。
移動による疲れで体調に影響が出たかもしれません。
暑さ対策や水分補給は万全だったか
この日の最高気温は29℃、湿度は最大88%、暑さ指数は最大で30に達し、水面休息中の暑さは、体に負担になりそう。
また、たくさん汗をかいたのに水分補給が十分ではなかったために、ダイビング中に脱水状態になることも考えられます。
この場合、最悪、血栓ができて血管が詰まる可能性もあります。
バディ同士のセルフダイビング中の別行動
事故を起したダイビングでは、落としたカメラを探すために、バディ同士が別行動をとりました。
エントリーしてからエキジットするまでの間、バディ同士が見える範囲でダイビングするのがセルフダイビングの基本。
「バディ・システム」を守らなかったことが死亡事故を起したと言えるでしょう。
それなりに経験のあるダイバーなら、エアの消費も少なく、17mなら1時間のダイビングは余裕でエア持ちするので、エア切れしてオクトを渡す、なんてことにはならないでしょう。
ですが、エア切れ以外の体調トラブルや器材のトラブルも、起こる可能性はじゅうぶんにあります。
同じ事故を起こさないための対策
今回と同じダイビング事故を起こさないための対策を考えていきましょう。
バディダイビングでは常にお互いが見える範囲に居ましょう
ダイビング中に急に体調を崩したとしても、バディが近くに居て気づくと、何らかの対処はできるはず。
最大水深17mにいたとしても、元気なバディがゆっくり浮上させれば、命にかかわる事態は防げた可能性はあります。
カメラを探している間に奥様が死亡していた、なんて、ご主人にとってはとてつもなく無念な出来事だと思います。
「せめて近くにいて、気づいて、水面に連れて行ってあげれたら。」
「カメラと奥様の命、どっちが大事なの?」
こんな思いをしないためには、バディダイビング中の別行動は厳禁です。
安全にダイビングできる体調管理
男女ともに、年齢を重ねるごとに、コレステロール値、血圧などが上がり、血管が弱くなりやすいです。
このような場合、減圧症になる可能性も高まります。
このため、ショップによっては、45歳以上の人がダイビングの予約をする際には、医師の署名入りの「病歴診断書」の提出を求めることもあるようです。
人間ドッグ等で健康状態をチェックしながら、安全にダイビングを楽むことのできる体調を維持するようにしましょう。
ダイビング地までの移動にゆとりをもつ
船橋市から東伊豆稲取は日帰りでダイビングを楽しめる距離です。
ですが、片道3時間以上かかるダイビングポイント。いつもより早起きして出発することになります。疲れが出やすいことを意識して、移動中やダイビング中にしっかり休憩時間をとるとよいでしょう。
じゅうぶんな水分補給をしましょう
9月半ばはまだまだ気温も湿度も高く、ふつうの生活をしていても熱中症の危険があります。
ダイビング中に脱水状態になってしまう危険がありますので、意識して水分補給をするようにしましょう。
とくに女性はダイビング中のトイレを気にして水分をとらないようにしている方もいると思います。
減圧症にならないためにも、じゅうぶんな水分補給をしましょう。
まとめ
2023年9月14日、東伊豆稲取海岸で、バディ同士でセルフダイビングしていた女性の死亡事故が発生。
事故時、バディが落としたカメラを探すために、水中で別行動をしていたようで、これが事故の最大要因。
女性の体調に何らかのトラブルが起こった可能性があり、バディが近くに居て気づくことができたら、ここまで悲惨な結果を招かなかったと思われます。
バディダイビングでは、お互いが見える範囲で行動しましょう。
2023年に発生したダイビング事故
2023年10月10日 沖縄県座間味嘉比島での体験ダイビング中の死亡事故