ダイビングは大自然の美しさを体験できる魅力的なアクティビティですが、その一方で減圧症という危険も伴います。
減圧症とは、ダイビング中に水圧により体内に溶け込んだ窒素が浮上時に気泡化し、体の組織を傷つけることで発症します。重篤な場合は命に関わることも。
深度が深く潜水時間が長いほど、リスクは高まります。
この記事では、ダイビング中に減圧症になる仕組み予防法を詳しく解説します。
ダイビング初心者から経験者まで、安全に海を楽しみたい方は必見です。
減圧症になる仕組み
減圧症は、ダイビング中に体内に溶け込んだ不活性ガス、主に窒素が問題となります。
- タンク内の空気がダイバーの体に溶け込む
- 浮上して水圧が下がると窒素が気泡化
- 気泡が血管や関節などに留まり体の組織を傷つけると減圧症を発症
の3ステップで減圧症を発症することになります。
また、疲労や食事など、体調も減圧症のリスクに影響があります。
タンク内の空気がダイバーの体に溶け込む
タンクに充填した空気を 水中で吸うと、深度による水圧の影響でダイバーの体内に空気が溶け込んでしまいます。
空気の約78%は、人体に必要のない窒素(不活性ガス)。
深く潜ると水圧が高くなるので、より多くの窒素が体に溶け込みます。
また、粘って写真を撮ったりなど、長時間ダイビングしていても、多くの窒素が体に溶け込みます。
これが減圧症の原因になります。
もちろん、溶け込むだけでなく、体外へ排出もされています。
ゆっくり浮上したり、 安全停止を行っている間、溶け込んだ窒素は徐々に体外に排出されます。
ですが、窒素をためすぎないダイビングが重要です。
浮上して水圧が下がると窒素が気泡化
浮上して水圧が下がると、窒素などの不活性ガスは溶け込んだままでいられず、気泡となってダイバーの体内に現れることがあります。
体に悪影響のないサイズのマイクロバブルは、多くのダイビングで発生していると言われています。
そして浮上を続けると、気泡はどんどん大きくなります。
高原など高い所をドライブすると、お菓子の袋などが膨らむ現象、体験したことありませんか?
標高が高く、圧力が低くなると、空気が膨張するのです。
これと同じことが、ダイビングの浮上時にも起っているわけ。
気泡が血管や関節などに留まり体の組織を傷つけると減圧症を発症
気泡となった窒素が体内の血管や関節内に留まって、体の組織を傷つけてしまうと、減圧症を発症することにます。
気泡が血流を阻害し、痛みや麻痺をひき起こしてしまいます。気泡が脳の血管を詰まらせた場合は、意識障害や死に至ることも。
ダイビングの際は、急激な浮上を避け、ゆっくりと水面に向かうことで、ガスの気泡化を防ぎ、減圧症を予防しましょう。
疲労や食事の影響
減圧症には、食事や疲労も影響を及ぼします。
体が疲れていると、体内のガス交換がスムーズに行われず、窒素を排出しにくくなる可能性があります。
また、食事も体内のガス交換や窒素の排出に影響を与えます。
特に、アルコールやカフェインは血管を収縮させ、ガスの排出を妨げるため、ダイビング前は控えましょう。
減圧症の可能性がある場合とは?
ダイビング中に体に溶け込んだ窒素などの不活性ガスが体内で気泡化し、体の組織を傷つけることで発症する減圧症。
実際にはどのような場合に発症するか、見ていきましょう。
減圧症の可能性のある水深は?
水深10mを超えると体内に溶け込む窒素の量が増えるため、 水深10mを超えたダイビングで、減圧症の可能性があります。
ダイブコンピュータで、10mより深い所で無減圧潜水時間(NDL)が表示されるのは、このため。
体験ダイビングでも水深12mまで潜ることができます。
このため、タンクを背負って水中に入る場合は、いつでも減圧症のリスクに注意しましょう。
急速な浮上で発症
減圧症が発生する大きな原因の一つは、急速な浮上。
浮上速度が速いと水圧が急に下がるため、体内に溶け込んだ窒素ガスが気泡化し、ダイバーの体の組織にダメージを与えるサイズにまで気泡が膨らんでしまう可能性があります。
急速な浮上は、エア切れ、アップカレント、パニックに陥った際に起こりがち。
これらの可能性のある方は、浮上に時間がかかる深い場所まで潜らないことをおすすめします。
深度が深く潜水時間が長いほど減圧症を発症しやすい
深度が深くなり、潜水時間が長くなると減圧症のリスクが上昇します。
これは、水深が増すと水圧も増し、体内に溶け込む窒素の量が増えるからです。
また、長時間潜ると、体内に多くの窒素が溶け込むことになります。
多くの窒素が溶け込むほど、排出までの時間がかかりますし、浮上時に気泡を形成しやすくなります。
水深と、その水深でダイビングできる時間については、ダイブコンピュータに従っていれば、比較的安全とされています。
ダイビング直後の飛行機搭乗や標高400mくらいの高所移動で発症
ダイビング直後の飛行機搭乗や高所移動は減圧症の可能性が高くなります。
ダイビングしたダイバーの体内には窒素などの不活性ガスが溶け込んでいます。
安全停止をしても、まだ窒素は残っています。
ダイビングをした直後の体では、標高400mくらいの気圧から、減圧症のリスクがあると言われています。
伊豆半島西部から車で天城峠(標高700m)を通って帰宅するなど、峠道を車で移動する場合、ゆっくりめの休憩を取ってから帰宅するのが良いでしょう。
また、飛行機は巡航高度で、標高2000mくらいの気圧(約0.8気圧)に調整されています。
このため、水中から上がった後すぐに飛行機に乗ると、気圧がさらに下がるために、窒素ガスが急速に気泡化し、減圧症を引き起こす可能性が生じます。
減圧症の予防法
ダイビング時の減圧症は、次のような方法で予防しましょう。
- 1分間に18m以下の速度でゆっくり浮上
- 水深5mで3分間の安全停止を行う
- ディープストップの実施
- 深い→浅いへゆっくりとした水深移動(水深のジグザグは危険)
- ダイブコンピュータの活用
- ダイビング後の飛行機搭乗は18時間後から
- エンリッチ(ナイトロックス)エアを使う
- 前夜のアルコールは控えめに
こまめな水分補給
ダイビング中の減圧症予防には、水分補給が極めて重要となります。
体内の水分が不足すると血液が濃くなり、窒素の排出が遅くなってしまいます。
それが結果的に、減圧症を引き起こすリスクを高めます。
ダイビング前後には必ず1杯のお水などを飲むことで、血液の流れをスムーズに保ち、気泡が溜まりにくい状態を維持できます。
ボートでもビーチでも、ペットボトルや水筒などに入れた飲み物を持って行きましょう。
1分間に18m以下の速度でゆっくり浮上
急浮上すると、溶けていたガスが気泡化しやすくなるため、ダイビング時の浮上速度は減圧症を予防する上で極めて重要な要素です。
一般的には、1分間に18m以下の浮上速度が推奨されています。
吐いた泡が浮上してゆく速度を超えない、のが、安全な浮上速度の目安。
ゆっくりとしたペースで浮上し、体内のガスが適切に排出されるようにすることが、減圧症を防ぐための鍵となります。
水深5mで3分間の安全停止を行う
ダイビングを終えてエキジットする前に安全停止を行うことが、減圧症の予防のために非常に重要です。
安全停止とは、水面に浮上する前に、一定の深さ(通常は5メートル)で数分間(通常は3分)とどまることです。
この間にダイバーの体内に溶け込んだ窒素ガスをたくさん排出できるので、ダイビングの基本的なルールの一つとなっています。
水深5~6mで停止するのが、最も効果的に窒素を排出できることが分かっています。
ロープや岩につかまるなど、浮きすぎないよう工夫しましょう。
安全停止が終わった後、比較的早めの速度で浮上するダイバー多いですが、浅い水深ほど、浮上時の圧力変化が大きく、ガスが気泡になりやすいです。
安全停止からの浮上時は、特にゆっくり浮上するようにしましょう。
ディープストップの実施
減圧症を防ぐ方法の一つとして、ディープストップがあります。
ディープストップとは、浮上途中に一定時間、一定深度で停止して、体内に溶け込んだ窒素ガスを排出させることです。
最大水深の半分程度の水深で2分程度とどまっているとよいでしょう。
安全停止のようにじっと止まっている必要はありません。前に進みながら、一定の深度に時間をかける、ということです。
例えば、25mまで潜った場合、15mから12mくらいの深度で前に移動しながらゆっくり浮上して楽しみましょう。写真を撮ったり、細かい生物を探したりしていると、そんなに意識せずにディープストップを実施できます。
ディープストップの警告やカウントダウンは、スントやガーミンなどの海外メーカー製のダイブコンピュータには搭載されていますが、ソーラー充電式の日本製のダイコンにはまだ搭載されていません。
深い→浅いへゆっくりとした水深移動(水深のジグザグは危険)
ダイビング中、深い水深から浅い水深へゆっくり移動してゆき、途中で深い場所に戻らないことが重要です。
ゆっくり浮上しながらダイビングすることで、深い所で取り込んだ窒素ガスを徐々に排出できます。
一方、深い→浅い水深を繰り返してジグザグに移動したり、ダイビング後半で再び深い所に戻るのは危険とされています。
深い所で窒素が溶け込む、浅い所で窒素を排出、を繰り返すことになってしまい、窒素をより多く残してダイビングを終えることになってしまいます。
その結果、どこかのタイミングで窒素が気泡化する可能性が高まります。
ダイブコンピュータの活用
ダイビングでは、減圧症予防のためにダイブコンピュータ(ダイコン)の活用が不可欠です。
ダイコンは、現在の水深や潜水時間、さらにはダイブプロフィールなど、様々な情報をリアルタイムで提供します。
最も重要なのは、その深度で減圧症にならずにダイビングできる無減圧潜水時間(NDL)の表示。
浮上速度が速すぎる場合には警告をしてくれます。
水深5mで3分の安全停止もカウントダウンしてくれます。
ダイビングを楽しみつつ、減圧症を予防するためにも、ダイブコンピュータを使いましょう。
ダイビング後の飛行機搭乗は18時間後から
ご説明した通り、ダイビング後の飛行機搭乗は、減圧症のリスクが高いです。
飛行機が飛ぶと気圧が下がるため、体内の窒素が気泡化してしまう危険性があります。
ダイビング後、体内に溶け込んだ窒素が完全に排出されるまでには時間が必要です。
そのため、ダイビング後は少なくとも18時間以上を経過させてから飛行機に搭乗することが推奨されていて、24時間空けると、より安全とされています。
飛行機に乗る前日は、午前2ダイブ、というスケジュールが一般的です。
また、ダイビング後に標高400mより高い場所へ移動する際も同じ理由で注意が必要です。
エンリッチ(ナイトロックス)エアを使う
ダイビングの際、減圧症予防に有効な手段としてエンリッチ(ナイトロックス)エアの使用があります。
ナイトロックスは、通常の空気よりも酸素濃度が高く窒素濃度が低い空気です。
いつも吸っている空気の成分は、窒素78%、酸素21%、その他の元素1%。ダイビング中に吸っている空気の成分も、これと同じです。
これに対してナイトロックスの多くは、酸素濃度が32%のエア。
黄色と黄緑色でタンクに目印をしてあります。
窒素濃度が低く、ダイビング中に体内にたまる窒素の量が減るため、減圧症のリスクを軽減できます。
また、酸素濃度の高いナイトロックスには、疲れにくく、頭痛も起こりにくいというメリットもあります。
前夜のアルコールは控えめに
海辺にダイビングに行くと、海産物がおいしいですよね。夕食と一緒に、お酒を飲みたくなるもの。
ですが、アルコールは脱水を引き起こすため、ダイビング前夜の飲酒は控えめにしましょう。
朝起きた時にのどが渇いているほどの量のお酒は、ダイビングには向いていません。
脱水により血が濃くなり血流が少なくなると、ダイビング中に排出できる窒素の量も少なくなってしまいます。
こんな症状は減圧症の可能性
ダイビング後に異常を感じたら、減圧症の可能性を示しているのかもしれません。
減圧症の症状は、以下のようなさまざまな症状が現れます。
- 関節や筋肉の痛み
- いつもとはちがう頭痛
- 吐き気
- 嘔吐
- 倦怠感
- 脱力感
- 皮膚のかゆみや発疹
- 視覚や聴覚の異常
- 呼吸困難
- 意識障害
減圧症は、発症した直後に治療を開始しないと、重篤な症状を引き起こす可能性があります。そのため、ダイビング後にこれらの症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。
軽傷の場合は、早期に治療すれば重大なダメージを防ぐことができ、ダイビングを再開できます。
一方、重症の場合、気泡が脳や脊髄に影響を及ぼし、意識障害や麻痺、呼吸困難といった深刻な症状が現れ、ダイビングの再開は難しいかもしれません。
まとめ
ダイビングは楽しいレジャーですが、減圧症のリスクを伴っています。
減圧症はダイビング中に水圧により体内に溶け込んだ窒素が、浮上時に気泡化し、体の組織を傷つけることで発症します。
深度が深く潜水時間が長いほど、リスクは高まります。
ですが、適切な方法で予防すれば、これらのリスクを低減できます。
こまめな水分補給、ゆっくりとした浮上速度、安全停止やディープストップの実施、ダイブコンピューターの活用など、具体的な方法もご紹介しました。
ダイビングは楽しみながら安全に行うことが最も重要です。減圧症になってしまわないよう、安全なダイビングをしましょう。